日本医師会は2015年に行った全国の病院に対する必要医師数調査の結果を受けて、医師不足は解消に向かっているとしました。
2007年には「医師偏在」に「医師絶対数の不足」も認めて医師の増員に向かってはいましたが、東京圏に医学部が新設される動きに対して医師会は反発を見せたのです。
2016年1月現在は、官学連携による医師数増加と、学生の確保に再びストップがかかった状態と言っていいでしょう。
確かに、実際に各病院から抽出した数字から換算した必要医師数の比較は2010年度と2015年度で見れば下がっています。
2010年度が倍率1.14であり、これに対して2015年度は1.11です。しかし、2010年度の調査は厚生労働省によって行われたものであり、2015年度調査とは回答数が比較になりません。
2010年度の回答数は8,698件あります。しかし、2015年度は3,834件。調査票に対して回答しなかった病院が多かったのだとか。
日本医師会による2015年度必要医師数調査は、回答漏れした病院の実態を明らかにするすべを持たないのです。
ただ、実態を完璧に映しているとは言い難いであろうこの調査結果においても明らかな医師不足を示す分野があります。
それがリハビリテーション科・救急科・産科・心療内科・病理診断科です。
この中でも特に病理診断科が最も危機的状況だと言われています。
患者からは姿が見えない病理診断医不足の問題
病理医とは基礎医学と、実際に患者を目の前にする臨床医学をつなぐ役職です。
検体検査や術後の細胞診なども手掛け、罹患率が上昇の一途をたどるがん治療においては、初期診断に欠かせない人材でもあります。
しかし、診断件数がここ5年程で3倍に膨れ上がっているというのに、日本病理学会によると、日本の病理専門医は2015年11月1日時点でわずか2,316人でした。
うち、病理専門医研修指導医認定者は1,828人。
また別のデータでは、2012年の病理診断に従事する医師数は1605人で、地域による偏在が確認されました。
徳島県、佐賀県などの地方では県内の病理診断医が10人に及ばなかったそうです。
現在でも病理医が1人しかいない病院が多数存在し、病院総数よりも病理医の人数が少ないことからむしろ「1人でもいるだけいい」と考えてもいいのかも知れません。
ですが、病理診断の件数は確実に増えているのです。例えば東京の国立がん研究センターには2016年1月現在で6人の病理診断医がいますが、2013年度の病理診断実施件数は、1万5千件を越えていました。
これから1人病理医の病院や、病理医が存在しない病院が増えればますます外部からの診断依頼が集中するでしょう。
そうなれば、国立がん研究センターのように人材豊富な病院ですら病理医数が十分とは言えなくなると考えられます。
病理医不足に医療機器業界からの注目も集まっている
病理医不足による病理診断の遅れは、即座に患者のリスクにつながるのです。
診断が遅れれば遅れるほど患者の病期は進み、深刻化します。
それが急性がんであれば、診断を待つ間に手遅れになる可能性すら否定できません。
こうした側面を医療機器業界でも重く見て、診断にかかる時間を短縮する方法を編み出しました。
細胞の病理診断に欠かせない画像撮影を半分の時間で行えるようにと、弘前大学から生まれたベンチャー企業から「バーチャルスライド(VS)」という医療用光学機器が提案されたのです。
医療機器の分野では近年多くのベンチャー企業が新たな医療機器、新たな技術開発に乗り出しています。診断1件にかかる時間やコストを削減すること。
早急な病理医確保に取り組みつつ、医療機器の見直しなどで現状に即した対応をしていく必要があるでしょう。
ベンチャー企業の開発する医療機器の多くは既存の機器に比べて価格も抑えられている傾向にあります。
医療機器のコスト抑制は人材確保の必須条項でもあるので、これからの医療機器メーカーの動向にも興味を持っていきたいですね。