福島県郡山市で11月20~22日に開催された「第76回 日本臨床外科学会総会」では「ロボット・IT技術が変える外科医の未来」
と題されたシンポジウムが企画されました。
このシンポジウムで最後に壇上に上がったのがAR研究の第一人者で、慶應義塾大学大学院、メディアデザイン研究科の教授である稲見昌彦氏です。
「AR(拡張現実感)、ウェアラブル技術が変える医療」と題し、AR・ウェアラブル端末の医療分野への応用、そして外科医の未来
について語りました。
AR/ウェアラブルとは
稲見氏はまず、ARを「実空間に情報空間を重ね、人間の感覚を増強・拡張する技術」と説明。
ウェアラブル端末については2014年を「元年」とも言えるほど進化が最近であることを紹介。
ARとウェアラブル端末の発展が著しく、「10年で性能は1000倍に、コストは1/1000になる」と言及しています。
ARの応用
医療向けAR「Medical Augmented Reality」はドイツのミュンヘン工科大学や神戸大学が精力的に研究を行っているようです。
神戸大学では外科医が手術を行う際に、患者の身体にプロジェクションマッピングで血管画像を重ねる技術
「OsiriX Mixed Reality Image Overlay Surgery」
を開発しています。
触覚のAR(Haptic AR)も外科医療に応用が可能で、これを使うことで動いている物体の上に精度の高い円を描くという作業も可能です。
ミュンヘン工科大学ではこの利点を生かし、レーザーを使う外科医療のガイドとして利用しています。
稲見氏開発のAR技術「Virtual Slicer」
慶応大学の理工学部・医学部の研究者と共に稲見氏が共同開発した「Virtual Slicer」
と呼ばれる技術についても紹介されました。
画像診断装置で取得した断層画像と患部との対応関係の把握を助けるインターフェースであるこの技術は、タブレット端末・レーザー光源・赤外線カメラ・
タブレット端末・患部の位置を把握するためのマーカーで
構成されています。
患者の胸部・腹部の上に垂直に立てたタブレット端末を持ってくると、その位置で患者をスライスした断層画像と患部の対応関係を、外側から眺めた状態で視覚的に把握可能
だという仕組みです。
ウェアラブル技術の応用
ウェアラブル端末については眼鏡型端末「JINS MEME」
が医療に利用できるのではないかと紹介しています。
稲見氏はこの端末の応用技術を、開発元のジェイアイエヌと共同で研究を進めているようです。
このウェアラブル端末は「自己認識の支援」を狙ったもので、装着者の疲れ・眠気の可視化
が可能になります。
医療分野では作業中に熟練者とそうでない人との違いを把握すること、そして患者の日常生活のモニタリングに
応用可能です。
AR/ウェアラブル技術によって「注意を払うべき対象に集中できる」「ソフトウェアの変更で各種のスキルに対応できる」ということが可能になります。
また、コンピューターやロボット技術による「自動化」ではなく、人がそれを使いこなせる「自在化」が可能になるとも言及。
ヒト単独・ロボット単独よりも優れた能力を持つ“人機一体”の実現も可能になると稲見氏は予想しています。
これら技術の応用は、熟練者の技を誰もが獲得できるようになると考えられ、外科医療の発展・安定化につながると言えるでしょう。