医師不足が危機的状況にあるのは、日本国内でも多くの地域にお住まいの方が実感されていることでしょう。
都市部に医師数が集中しているのが現状ですが、そんな都市圏ですら科目や地域によっては満足な医療を受けられない方がいます。
手当を行う医師の不足は、治療を受ける患者の目から見ても判りやすい部分です。しかし、実はその裏でより深刻な事態が起こっていました。
深刻化する病理医不足
世界的に見ても人口内の有病者数は年々増加しており、日本ももちろん例外ではありません。
当然病院で行う治療を必要とする患者数も増えますが、人口当たりの医師数推移は以前のまま低調です。需要に応じてすぐに増やせるというものでもありませんから当然ですが、そうすると特に人員不足の分野では深刻な事態に陥ります。
がんや成人病、特異な症状を持つ病気などでは治療開始前に病理診断を行うのが通常の手順です。
しかし医師不足の流れは止まらず、現在では病理診断を行える「病理医」が一人しかいない病院が急増しています。むしろ在籍しているならば良いほうで、別の病院から病理医のいる病院へ遠隔で画像診断を依頼しなければならないケースも増えているのだとか。
診察を受ける患者の側からは見えにくい「医師不足」ですが、今、すでに非常に深刻な状態に陥っていると考えて間違いないでしょう。
病理医の不足が解消されないとどうなるのか
病理医はそもそも「病気の原因、発生機序の解明や病気の診断を確定する」のが仕事ですが、その上に解剖や学生の教育、研究までもこなさなければならない職種です。
タイムテーブルを考えるだけでも非常に過酷だと想像できますが、近年では病理検体がとにかく増えており、1987年と2002年の比較でも約2倍の数値をたたき出しています。
つまりそれだけ深刻な病気にかかる人口が増えている、という事でもあるのでしょう。
手術や検査で採取された検体は病理医のもとに送られ、病名を決定したり、手術が成功しているか否かを調べたり、術前治療の評価をしたり、また、治療方針の決定に欠かせない情報を抽出したりするのに使用されます。
つまり、治療も手術もアフターフォローも、「病理医」がいなくては始まらないのです。
しかし、なかなか日の当たらない「病理医」を志す学生は知名度の関係で非常に少なく、加速する医師不足と医師偏在が明らかに病理医の分野に影を落としていることが判ります。
現在、病理医の世界では42歳が若手と認識されています。
このまま病理医の不足が解消されず、新しい人材が増えないまま状況が進めば、いずれ病理診断を必要とする手術を受けられない人の割合が増えていくでしょう。
助けられる命を助けられない日が来る。
その前に、これから医師を志す学生たちに病理診断の重要性を認識させ、志望者を増やす取り組みが必要なのです。
国、教育機関、医療機関が足並みをそろえれば、少しずつではあっても病理医不足は対応して行けるはずです。それまでは「遠隔病理診断」など、複数の病院をつなぐツールの使用が活路となるでしょう。