地域医療が医師不足で破綻の危機に瀕しているというのは有名だが、各自治体に属する刑務所などの矯正施設も例外ではありません。
常々話題になっている通り医師不足の影響は刑務所に勤める「医官」の数にも表れており、施設内での医療サービスが十分に行われないことが、収容された人々の立ち直りに支障を与える可能性が指摘されるようになりました。
刑務所・少年院などの医官採用は法務省の管轄で行われています。
健全な心身にこそ道徳や健やかな精神が宿りますので、適正な医療、健康管理を標榜して「法務技官」を募集しているのです。
しかし近年応募は減少し続けているようで、全国158か所の定員332人に対して、2013年4月時点で260人。必要人数まで72人もの開きがありました。
それから1年経った2014年4月時点ではさらに252人に減少が進んでおり、毎年最少人数の記録を更新し続けています。
国家公務員「矯正医官」減少の理由とは
法務技官「矯正医官」が定員を満たさなくなったのは、もう10年以上前からのことです。
なぜ医師免許を持つ人が法務省に応募しなくなったのかは、民間施設との給料格差が一因と考えられています。
50歳の矯正医官の例で言うと、41歳の民間施設に勤める医師より23万円給料が少なかったのだとか。
施設に収容される人員は増えており、社会復帰を促すための取り組みは待ったが効きません。一刻も早く現状を打開し、矯正医官の人数を確保するためにようやく日本政府も動き出しました。
医官確保の取り組みに見られた動きとは
医官志望者を増やすために国が提出したのは、矯正医官の兼業と勤務時間に関する特例法改正案でした。
国家公務員はこれまで原則として副業が禁止されてきましたが、これを緩和することで収入格差を是正しようという狙いがあるのではないでしょうか。
矯正施設での勤務に合わせてほかの医療機関でも勤務できれば、確かに合わせた収入は格段に高くなるはずです。
また、勤務時間をフレックス制に変更して、研修や研究に参加しやすい環境を作ろう、というのも、医師としての活躍を後押しする規定として盛り込まれました。
この改正案は参院本会議において全会一致で可決され、衆院通過もおそらく今年度内だろうと言われています。
こうした条件の緩和と待遇改善で矯正医官志望者が増えることを期待しているようですが、実際にはそれは難しいのかもしれません。
矯正施設で医療に従事することそのものに抵抗感を持つ医師が少なくないのです。
この特例法改正による定員確保が難しいとなれば、より一層の待遇改善が図られる可能性もあります。どこまで規定が緩められ、待遇が改善されるのかはわかりませんが、少なくとも年々環境や条件が向上していくのは間違いないでしょう。
いずれ公務員である医官の方が、民間の医師よりも高待遇になる日が来る可能性は皆無ではありません。
医官の社会的存在意義と共に、矯正施設についての認識も新たに考えてみてはいかがでしょうか。