医師不足と言うと、一般的には産婦人科医や小児科医を連想することでしょう。
しかし病院の中で重要な役割を担いながらも知名度の低い「病理医」の不足は「すでに破綻に至っているのではないか?
というほどに深刻な状況となっています。
病理医不足のリスクを、実際の事故事例を交えてみていきたいと思います。
病理医不足の実態
直接患者と触れ合うことがほとんど無く知名度も低い病理医は志望者が少なく、現状従事している病理医は毎日激務に追われています。
病理診断以外にも解剖や報告書の作成、教育や研究にも勤しまなければならないにもかかわらず、年々病理検体数は急増を続けており、1人当たりの負担は増える一方です。
2015年11月時点での病理専門医の数は約2300名となっており、病理医のいる病院は全国に約500しかありません。
1人病理医状態となっている病院も多く、また若い医師も少ない現状は、すでに窮地に陥っていると言えるのです。
病理検体の取り違え事故事例
激務により疲労が溜まると、仕事でのミスも発生してしまうことでしょう。
しかし医師にとって、それはあってはならないことであり、患者にとっては命取りとなる可能性もあります。
実際に検体の増加に対して人員が不足しているという、構造的な問題点が指摘された事故が発生しているのです。
「千葉県がんセンター」では2015年に起きたこんな事例があります。
12月上旬に30代の早期乳がん患者の右の乳房をすべて切除する手術が行われましたが、これは不要な手術であったと発表されたのです。
早期のがんであり、直ちに乳房の切除は必要ありませんでしたが、進行したがんであると誤った診断を受け、手術に至りました。
10月上旬の同日に、乳がんの疑いがある2人の女性患者が組織を採取されましたが、この2つの検体をどの時点かで取り違えてしまったことによる結果だったそうなのです。
この事故に関する報告書では、カンファレンスで十分に議論がなされていればミスに気付けたはずであると指摘する一方で、事故の背景には人員不足があるとして、増員や政策の改善が提言されました。
このまま病理医不足が続くと……
このまま病理医が不足した状態が続くと、どうなってしまうのでしょうか。
特にがんの手術において重要な役割をする術中迅速診断が滞り、手術の延期や術中診断なしの手術が行われることになるかもしれません。
また進み続ける高齢化社会においては、病理解剖の必要性はますます重要となっていくことでしょうが、病理医不足により死因不明となる方が増えてしまうかもしれません。
さらに病理医ひとりひとりにかかる負担が増えていくと、診断のばらつきや誤診の可能性も出てきます。
このように、病理医不足はすでに深刻な状況を迎えています。
ぜひ多くの方に関心を持ってもらい、解決していかなければならない問題となっているのです。