転科についてのポイントや伴うリスク、先生方が転科をお考えになる理由等をご紹介します。参考となれば幸いです。
転科を考える人生の節目
医師が転科を考えるのは、人生の節目にあたる時期が多いようです。
たとえば卒後10年前後。専門医資格の取得前後のこの時期は経験も見識も十分身についてきた頃です。さまざまな事情で医局を離れて転科しようかという先生が少なくないのもうなずけます。
そしてその次が開業を考える頃。ひとたび開業すれば、医師としてだけではなく経営者としての感覚も求められます。時代のニーズにあった自由度の高い科に転科したいと考えるのも当然のことです。
そして、40歳を過ぎて老視や体力・集中力の衰えを自覚し始める頃。これはもともとの専門にもよりますが、繊細な手術をバリバリこなしてこられた外科医の先生などにはこたえるだろうと思います。転科によって少しでも長く医療に貢献したいと真剣に考えられる先生も多いようです。
医師が転科に求めるもの
上記でいくつか医師が転科を希望する理由を述べましたが、もう少し具体的に転科の理由となり得るものを掘り下げて考えてみましょう。
【経済的理由】将来を考えた時・開業を視野に入れた時、十分な収入を得るため転科を検討する。
【将来性に関する不安】自分の科では医師が過剰になりそうなので、もっとニーズが高そうな科や自由度の高い科に転科したい。
【現状環境への不満】所属している医局や教授とのしがらみから他の科に移りたい。
【QOLの向上】「仕事が忙し過ぎる」などの理由で、生活の質(QOL=quality of life)を高めるため転科したい。
【やりがい】より高いやりがいを求めて転科したい。
【研究に重点を置きたい】研究に時間と精力を割ける科に転科したい。
【年齢的理由】年齢的に従来どおりの仕事を続けることに困難を感じるようになってきたので、もっと負担の少ない科に転科したい。
およそ上記のような7つの理由に分類できるのではないでしょうか。いずれももっともな理由です。しかし、実際に転科に踏み切るとなるとそれなりのリスクも伴います。
転科に伴うリスク
医師には高度な知識と技術が求められます。その習得のために長い年月と研鑽を積み重ねてこられたはずです。転科によって、それらの積み重ねの一部が無に帰してしまうリスクをまず考える必要があります。転科先での専門性を発揮できるようになるまでにかかる年数と、そこから先に第一線で活躍できる年数を逆算して転科が「間に合う」のかそうでないのか、現在の科のまま職場を変えることでご自分の問題を解決できないか、という総合的な判断が求められるでしょう。
目先の情報に惑わされない
「○○科では医師の負担が軽い」「○○分野のニーズは今後も引き続き高まり、高収入」「○○科はQOLが高い」などの噂をよく耳にします。しかしこれらの噂は個人的な感想や、まったく根拠のない作り話が入り混じっています。
もちろん「自分の性分に合う業務、適正な仕事量と環境、十分と思える収入」に恵まれる方もいらっしゃいます。またそれを求めて転科・転職・開業を決断なさる先生が多いのは当然のことです。
しかし、それは個別の求人案件とご自分の条件・価値観とのマッチングで生じるものであって、「〇〇科に移れば問題が解決する」というような大雑把なものであるはずがありません。
また、一時的にある科で人材が不足し、あるいは別の科で人材が過剰になったからといって、そのトレンドが今後ずっと続くとも限りません。
転科は医師の人生において何度も繰り返せるものではありません。転科のご意志は尊重いたしますが、決断にあたっては数十年という長い視野で慎重にご検討なさるべきでしょう。